『生きがい』について、昨晩ほど考えさせられた夜はなかった。 昭和13年生まれ。この小料理屋さんの女将は同じこの場所で、50年間この看板を出し続けてきた。 その歴史の中で、お店をお休みしたのはご両親がお亡くなりになった時だけだったと仰る。
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『生きがい』について、昨晩ほど考えさせられた夜はなかった。
昭和13年生まれ。この小料理屋さんの女将は同じこの場所で、50年間この看板を出し続けてきた。
その歴史の中で、お店をお休みしたのはご両親がお亡くなりになった時だけだったと仰る。
そして今宵も女将は、ご常連をお迎えする為にただひたすら『いつもの飾りすぎない居心地』をご用意していらっしゃる。
その暖簾には『全ての無駄がそげ落ちた様な潔くて安らかな存在』が宿っていた。
僕は女将に『お燗酒を頂ければ』と言っただけで、それ以上注文の必要がない事をすぐに感じる。
身を委ねたくなるような、そんな温もりが身体の小さな女将の周りを大きく包み込んでいた。
女将は僕に、慎ましくも晴れやかな笑顔で『私の生きがい』という言葉を四回使った。
『生きがい』それは人生の険しない岩場を幾度も乗り越えたその先に咲いた静謐で可憐な花の畑。
僕は女将にとっての小さな花の一つになりたかったし、いつかそんな『生きがい』を語ることのできる人間になりたいと心から願うのであった。