7月の最初。バイトの面接を終えた僕は一人、錦糸町にある『喫茶トミィ』にいた。
378 Views
7月の最初。バイトの面接を終えた僕は一人、錦糸町にある『喫茶トミィ』にいた。
『結果は一週間以内にご連絡します。どうか一緒に働けたら良いですね』と面接の最後に言葉を掛けて頂いた。
『喫茶トミィ』で僕は、五年前のあの日を思い出していた。
あの日の夜、僕は突然浴槽で激しく天井が回るような目眩の後、三十分以上、全身が通電したように痙攣し続け、やがてトイレで吐血と下血をした。
これは食中毒だと自分に言い聞かせて家族には内緒にしていたが、翌朝トイレの底にあった血の痕跡を家族が発見した。
うちのトイレは水を全部飲み込んだあと、最後の最後に咳き込んで水を吐き出す癖があったのだ。 翌朝、駄々をこねて嫌がる僕を無理矢理、嫁が病院に引きずり込んでくれた。
一週間後、病院で見た内視鏡写真で僕の癌は綺麗なアクアマリン色に輝いて見えた。そして『この癌はスキルス性で緊急性の高いやつ。』と結果説明を受けた。
そう、耳がちぎれる勢いで病院に連れていってくれる家族がいて僕は人生をリニューアルする事ができるのだ。
そしてもう一つ。近年トイレは進化してトルネード式に水を飲み込んでいく。
しかし僕の命を救ってくれたトイレ【最後の最後に咳き込む癖のあるやつ】の(胃がん発見機能)が急速に失われつつある。
それがちょっぴり残念なのであった。